意匠のデザイン

意匠設計のための高品質形状モデリング手法

classA
競争力のある製品を生み出すためには,機能の豊富さや品質の高さなどとともに,意匠デザインの果たす役割が大きい.魅力的な製品デザインを効率よく完成させる必要があると考えられるが,現在の意匠設計初期段階においては,

・アイディアソースがデザイナの個人的な発想に依存する
・スケッチやクレイモデル作成等のアナログ作業の占める割合が大きい
・CAD/CGのオペーレションが直感性に欠ける
・他の設計工程(CAD,CAM,CAE等)に比べると支援手段が少ない

といった問題がある.ゆえに今後はこういった問題を解決できるような,デジタルな意匠デザイン支援システムの充実が求められる.
工業デザインにおいては,個性とともに造形の完成度の高さが求められる.特に自動車のエクステリアデザインにおいては,光線の映り込みの美しさが評価材料になるなど,かなりの高品質な形状生成が必要である.このような高いレベルの曲線・曲面を作り込むことは一般に難しく,デザイン意図と同時に達成することはかなり困難な作業である.
本研究では,Class A と呼ばれる高品質形状の生成手法を中核とするデザインシステムの開発を行っている.Class A とは自動車エクステリアなどで要求される高い品質の曲線・曲面の慣例的な呼び方であり,数学的には曲率(変化)が単調な曲線・曲面と定義される.Class A 形状を自在に扱うことができれば,デザイナやCADモデラーはアイディア検討やデザイン意図の達成のみに集中できるため,デザイン工程の効率化のみならず,斬新かつ高品質なスタイリングを行えるようになると期待できる.


 

意匠設計のための美的価値の定量化

aestheticvalue 工業製品の意匠デザインでは形状の「高品質さ」と「美しさ」が求められる.形状の高品質さとは,曲線・曲面の曲率の観点での特性を意味し,曲率連続性などの数学的表現によって客観的に確認することができる.一方「美しさ」は主観的な価値観であり,受け取り手によって基準が異なる.これは芸術作品では問題にならないが,多数の人間が関与する工業製品のデザインにおいては非効率さの要因になりかねない.
我々は,意匠曲面の美的価値の定量化を目指し,曲面の「美しさ」の評価法および美的価値に基づく形状修正手法の研究を行っている。我々のアプローチは,基準の異なる2つの形状評価手法を組み合わせることにより,美的価値を判断するためのパラメタ空間を構築することである.ここではClass A 基準とひずみエネルギによる基準を用いており,Class A 領域内で最もひずみエネルギが小さくなる点を原点にとっている.この原点が必ずしも最良の美的価値を表すとは限らないものの,現在扱っている形状を上記のパラメタ空間内の位置によって定量化することができる.デザイナやCADモデラー達はこの数値に基づく形状評価やコミュニケーションができるため,合理的かつ効率的な形状デザインが可能となることが期待される.


 

デザイン意図を満たす高品質形状フィッティング

RE  製品設計において,3Dスキャンによって対象の形状データを取得し,得られた点群データからCADモデルを復元するリバースエンジニアリング(Reverse Engineering)が盛んに行われている.点群データから曲面データを得るプロセスの大部分は手作業であり,このような非創造的行為にかなりの労力を要している.また,例え滑らかな曲面データが得られたとしても,それが意匠デザイナの意図したものであるとは限らないため,更なる形状修正作業が必要となる.
我々は,細分割曲面フィッティング手法とClass A B-spline曲面技術を結合した,曲面生成システムの研究を行っている.極限においてClass A B-spline曲面に収束するように制御点位置を微修正することにより,高品質な曲面データが得られる.ここで前提となっている考え方として,物理モデルから測定によって得られた点群位置が,必ずしもデザイナの意図通りではないという仮定を行っている.測定ノイズ,形状解釈の違い,手作業によるモデル生成,またはフィッティングアルゴリズムに起因するデザイン意図からの誤差が点群自体に含まれている場合,エラーがゼロとなる形状フィッティングを行ったとしても,結局意匠デザイナのアイディア通りにはならないことになる.我々の手法では,測定点群のごく近傍に真に意図する形状があるはずだと考え,点群からの最小自乗距離を勘案しながら,デザイナが意図する高品質曲面形状を選択できるようなシステム開発を行っている.これにより,不毛なデータ修正作業に煩わされることなく,意図通りの高品質形状が得られるようになることが期待される.